女心のマニキュア ・・・19・・・ 

女心のマニキュア

私の子猫よ ここにおいで 
背中(せな)を伸ばして ミャーミャーと
「さぁ~爪をお出し!塗ってあげるわ
もう来ない・・・さよならあいつ 
思い出は 薄紫がお似合いね」
お部屋の香り 女心のマニキュア

私の子猫よ ここにきたの
喉を鳴らして ゴローゴロと
「さぁ~爪をお出し!塗ってあげるわ
もう来ない・・・グッドバイあいつ
移り気は 薄いピンクがお似合いね」
お部屋の香り 女心のマニキュア
 
私の子猫よ ここにいてね
寝息をたてて スゥースゥーと
「さぁ~爪をお出し!塗ってあげるわ
もう来ない・・・バイバイあいつ
お別れは 薄水色がお似合いね」
お部屋の香り 女心のマニキュア
             2019年

団塊末子のつぶやき

高2・・・夏

彼女と私は、何でもが正反対だった。彼女は痩せぎす、瞳が絶えずキョロキョロしていて、ピーンと神経がはりつめていた。帰りの電車も西と東。ただ彼女と私は、目が悪いのに、眼鏡をかけないところが似ていた。

友人のいない、友人をつくろうとしない、彼女の唯一のはなし相手が、私だった。ふらりと一緒になり、喫茶店に入り、別れる時には、もうここまで・・・と、思っていた。それでいて、又、互いにふらりと、喫茶店で時を過ごしていた。

同じクラブでの彼女は、全く意志を示さなかった。隅っこで、ビクビクしたように、他人の言う事に相槌していた。彼女の真意は、分からなかったけれど、彼女の心の中に、立ち入ろう等とは、思ってもみなかった。

それなのに、クラブを離れると、人が変わったような面持ちで、私に、尖った口調で意見してきた。どうしてクラブで、そう云わないのか、彼女は卑怯だと思った。なぜ?そんなに独りよがりなのヨ!

彼女とクラスが別になった、高校2年の暑い真夏。年齢は2歳上だけど同級生の、Hという彼と3人で、クラブが終わっての帰り道だった。彼は自転車を押しながら、私に話しかけてきた。いつもの調子のボソボソした低い声で・・・

・・・私は、彼の声を聞きとる為に、彼の口元に近づいていた。無意識だった。話かけてくるから、聞かなくてはの一心で・・・。そして、彼女は、私達2人の後ろから少し、離れて歩いていた。

アスファルトの照り返しがムーンとした。セミがジイジイと鳴いて、遠くの車の音が、すぐ近くで聞こえていた。「じやまた」と、彼は自転車に乗り、離れて行った。彼女と私は、いつも通り電車の駅に向った。暫くは無言で歩いた。暑い夏休みの昼下がりだった。

お互いが、「涼もう、喫茶店」と、誘わないのが不思議だった・・・足を止め、私が、何か云おうとした時、彼女が先に口をきった。まるでひとり言だったけれど、はっきりと。「負けたわ」何も云わせない圧迫感に、強い意志を感じた。

「私が好きな男性(ひと)、あなたに分かる」問いかけてくる彼女の瞳が、今まで見た事のない光を放ち、輝いていた。私に強く意見する時の、瞳とも違っていた。

足元のアスファルトは、燃え狂うように暑かった。さっき、止まったと思われた蝉の鳴き声が、私の耳もとで、一斉に聞こえてきた。

私は、クラブの男性の名前を一人づつ挙げていった。彼女は「違う」と首を横に振るだけだった。クラブの男性の名前を、全て言ったと思われたのに、彼女は頷かない・・・

・・・自分の事を打ち明けてくる彼女に、私はまだ気付いていなかった。彼女は、それでも気長く、私の答を待っていた。短気な彼女にとって、めずらしい事だったのに、私の方が気短くなっていた・・・

・・・「あなたと違って、鈍い私には分からない」私は、面倒くさいとばかり答えた。皮肉を、こめたつもりだった。こんな雰囲気から、早く抜け出したかった。

「本当に、鈍いのね・・・」あの挑戦的で、挑みかかってくる目でなかった。彼女が、ずっと年上に思えた。彼女がいつになく、とても素直だと感じていた。

「鈍い人ね!今別れたH君、でも・・・彼はあなたが好きよ」ガーンと、私の頭の中で音がした。Hだったのか、忘れていた。いや、全く私の心の中に、いなかったからだ。それ以上に、彼女に負けたと思った・・・

・・・彼女と競争していたつもりはなかったのに、彼女はいつも、私に対して挑戦的だった。どこかで、私も彼女を意識していたのだろうか・・・。快い負け方だ。私は、彼女が好きになった。素直な気持ちで、彼女に負けたと思ったから・・・。

同じ歩調で、ふたり黙って、停留場へと向かった。相向かう路面電車の、小さな駅で、私より先に電車に乗った彼女が、ガラス窓越しに、右手の指でOKの合図をしていた。なぜか近視の私に、はっきりと見えた。

ゆっくり電車が走りだした。どこか遠い、彼女自身のみえない敵に、合図したのかも知れなかった。

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