アフターセブン
淡いピンク 君のルージュ
ブランディーの薫り 彷徨う女心
「ジャズ それとも ボサノバ・・・?」
瞬(まばた)きしながら 僕に問いかけて
流れるのは 真っ赤な
バラのフラメンコ
揺れてる 揺れてる・・・長い髪
ふるえる ふるえる・・・小さな肩
黄昏ナイト アフターセブン
淡いマニキュァ 君の指先
バーボンの匂い 漂う男心
「ラテン それとも ブルース・・・?」
瞬(まばた)きしながら 僕に問いかけて
どうでもいいグレーな
吐息ウィークエンド
揺れてる 揺れてる・・・長い髪
ふるえる ふるえる・・・小さな肩
黄昏ナイト アフターセブン
2015年
団塊末子のつぶやき
アフターセブン
満ち足りた日常、贅沢な生活、愛し合う男と女。やがて、ふたりの向こうに、倦怠と言う名の、表札をかけた扉が待っている。扉を開くと、カオスの漂う廊下の先に、たくさんの部屋が見えてくる。どの部屋を選ぶのか、自分で選択しなければいけない。
別離、退廃、決断、持続・・・人生の別れ道とは、情熱が満たされた時から、始まるのかもしれない・・・。
高層マンションからの黄昏は、なに人にも邪魔されない、セレブなミッドナイトへの、オープニングのはずなのに、いつの頃からだろう・・・ふたりの時間が、気怠いダルさに包まれてきたのは。いや、私に芽生えた、迷いなのかも知れない・・・。
実業と名声を得たあなたは、充実の毎日を過ごし、今や家庭など必要としていない。絆、形式、世間、常識等に、抗ってきた私。年齢差あるあなたに、憧れ尊敬し、恐れ、慄き、夢のような年月が過ぎて、今、確かに倖せだと思う。
黄昏時から翌朝までの、ゆったりと静かに流れて、積み重さねた日々も、BGMに彷徨う女心も、手繰り寄せれば、愛おしくて、涙ぐんでしまう。やがて、あなた愛用の、三十三回転のレコードが終わる。音のない空間が、なぜか長い。
「ジャズ、それとも、ボサノバ?」微睡むあなたに、小声で囁く。「うん・・・」目を閉じたまま、少し首を傾げて、次の曲よりも、濃いめの琥珀色を、聴いているあなた。明日は明日の風任せのあなた・・・。
大人すぎる男の倦怠感に魅せられ、心地良すぎて、壊れそうな私・・・揺れる、ふるえる・・・目を閉じたまま、私を見つめているあなた。この先も、ずっとずっと、あなたを慕い、寄り添う私の、心をも充分に知り尽くした、あなたの男心。
いつもと同じ黄昏どき、どうでもいい、グレーな吐息のかくれんぼ。いつもさがしているのは私。グラスを置いた手で、私の好きな、フラメンコのレコードを探す。「あぁ、歯痒いのよ、わたしの女心・・・」